清酒誕生に
次ぐ革新。
樽酒と聞くと、鏡開きを真っ先に思い浮かべるかもしれません。しかし、じつは樽酒は、日本酒の新しい時代を切り拓いた存在でもありました。
酒造りにおける最初のイノベーションが「清酒の誕生」であったとするなら、海運による大量輸送を可能にした樽の登場は、それに次ぐエポックメイキングなできごと。
伊丹の酒に江戸での成功をもたらしたのも、樽があったからこそなのです。
節が少なく、年輪が均一で、根元から同じ太さで伸び、色艶がよい。酒樽づくりの素材には、質の高さでは随一の、奈良の吉野杉が重宝されていました。
樽廻船で江戸へ酒を送る「下り酒」が盛んになり、清酒発祥の地・伊丹の銘酒が人気を博すにつれ、伊丹における樽の需要も増大。
吉野では、樽の材料となる木を束ねたもののことを「伊丹味(いたみ)」、また杉山のことは「伊丹味山(いたみやま)」と呼ばれるほどになりました。
吉野杉のさらなる魅力は、その香りのよさ。江戸へ向かう船上、波に揺られている間に樽の杉の香が酒に移り、到着する頃には、なんともいえない豊かな味わいに仕上がっていたのです。
ほんのりと木香をまとった清酒は江戸っ子を魅了し、最盛期には年間で百万樽もの数を輸送。
その多くを伊丹の酒が占めていたことから、伊丹のまちは目を見張る発展を遂げていくことになります。
伊丹の美酒に呼び寄せられたのは、名だたる文人墨客も例外ではありませんでした。
酒造業で得た潤沢な経済力もあって、多様な芸術が根づく土壌ができ、伊丹らしい文化的な風土の開拓につながっていったのです。
ふだんの酒造りにはみられない、様々な手によって支えられていることも、樽酒ならではといえるでしょう。杉の木を伐り倒す。樽材に加工する。樽を組み上げる。菰(こも)を巻く。その一つひとつの工程において、いまなお受け継がれる職人技。樽酒を楽しむことは、そうした貴重な技術の伝承とも深く関わっているのです。
江戸の昔から人々の輪の
真ん中にあった、大きな樽。
ふわり漂う芳醇な杉の香を、
ワクワクしながら待ちわびる。
そのささやかな喜びを、
時を超えて、あなたにも。
そんな気持ちで造りつづける、
白雪の樽酒です。